弁護士コラム
【弁護士コラム】昨今の日本社会と「オーバーハラスメント」の問題点

こんにちは。相模原の弁護士の多湖です。
科学技術が発展しても、昔の人が説いた哲学や教訓というものは、現在でも変わらず意味を有しています。
「中庸(ちゅうよう)」とは、過不足がなく、偏りがないことを指して使われています。この中庸の大切さを説いたのが、東では孔子であり、西ではアリストテレスです。
徳川家康は「及ばざるは、過ぎたるに勝れり」とまで述べています。
弁護士をしていて、多くの少年事件と接しましたが、やはり少年事件が起きる背景には、「過保護、過干渉」と「放任」が影響していると実感しています。
本当に昔の人たちは人間の本質をよく捉えています。
今日は、日本社会を蝕み始めている「オーバーハラスメント」についてです。
目次
「不快」と「ハラスメント」は同じではない
昨今、日本社会では「ハラスメント」がつく言葉が非常に増えました。
なかには、「受け取り手が不快と感じたら全てハラスメント」「自分が不愉快なものは全てハラスメント」という極端な言論まで存在します。
しかしながら、人間社会は自分とは違う多くの他人が存在するため、日々「不愉快」なことというのは当然のように存在します。
いわゆる「騒音」なども「騒音ハラスメント」ともいえますが、騒音訴訟では、裁判例で「受忍限度論(不快なレベルが平均的な一般人において我慢の限度を超えて違法といえるか)」が採用されており、参考となります。
いずれにせよ、不愉快だからハラスメントいうのは、明らかに「オーバーハラスメント」で誤った使い方です。
過保護、過干渉といった言葉から、オーバーはダメだというのは分かりやすいと思います。
パワーハラスメントにみる客観的な判断基準
他の類型のハラスメントも、パワハラの考え方に照らせば自ずからそのラインを導き出すことが出来るため、パワハラを例にとります。
例えば、「神戸地裁平成29年8月9日判決」は以下の通り述べています。
職場のパワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為をいい、その行為類型のうち典型的なものとしては、
〈1〉暴行・傷害(身体的な攻撃)
〈2〉脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
〈3〉隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
〈4〉業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
〈5〉業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
〈6〉私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
被害を訴えるものの、主観的に不愉快なことは全てハラスメントに当たるとは述べておらず、必要性や、行為態様、程度といったものを客観的に判断しています。当該行為の必要性、相当性の観点が重要です。
厚生労働省が示すパワーハラスメントの3要件
さらに厚生労働省は、以下のようにさらに定義を細かく定めています。
厚生労働省の基準では、以下の1から3の全ての要件にあたることが必要とされています。双方の立場や、行為態様の悪質性等が重要です。
【参照】平成30年10月17日 厚生労働省「パワーハラスメントの定義
📄https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf
1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
⑴ 意味
当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること
⑵ 具体的な例
- 職務上の地位が上位の者による行為
- 同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
⑴ 意味
社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること
⑵ 具体的な例
- 業務上明らかに必要性のない行為
- 業務の目的を大きく逸脱した行為
- 業務を遂行するための手段として不適当な行為
- 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
⑴ 意味
○当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
○「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」又は「就業環境を害する」の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とする
⑵ 具体的な例
- 暴力により傷害を負わせる行為
- 著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
- 何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
- 長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為
やはり、「不愉快なもの」は全てハラスメントに当たるなどとは述べていません。
また、判断基準もその人個人ではなく、「平均的な労働者」によって判断されます。現在、独り歩きしている「ハラスメント」のイメージとは異なることが分かります。
「オーバーハラスメント」が社会にもたらす弊害
ハラスメントの定義を正しく理解せず、「私が不愉快なものは全てハラスメント」という言論が広まると、ハラスメント概念に由来する組織や社会からの行き過ぎた非難、廃絶を招き、かえってその委縮効果から社会全体からの「ハラスメント」に対する不信感、あるいは関心を削ぎ、生きづらさを招いてしまったり、社会的問題点を解決し、救済をしようと試みてきた流れを阻害し、全員が生きづらい社会が到来してしまう恐れがあります。
具体的には、会社でも中間の労働者が新人から(オーバー)ハラスメントの訴えをされることを恐れ、社内での人間的なつながりを絶ち、業務上の注意や指摘さえ避けるという事態に日々接することとなり、おかしいと思っていても誰も指摘しなくなる社会が到来します。
それらは誰にとっても非常に不幸なことであり、いずれ社会でその弊害が問題になるころには、取り返しのつかない事態になってしまうことが予想されます。
一方で、今度はオーバーハラスメントが独り歩きして逆戻りするのも非常に問題です。
だからこその「中庸」です。どちらにも行き過ぎはよくありません。
求められるのは「中庸」と法の視点
もちろん、自由主義国家では、色々な考え、立場があって然るべきですから、別の考え方があってもいいわけです。
しかしながら、そのような異なる考え方の間で、皆が共通して守るべきルールが「法」であり、それ以上の一方的な押し付けをして制裁等を行うことは出来ません。
やはり本当に違法性のある行為は何なのかという観点は、非常に重要となります。
企業や組織、あるいは社会に住む人々が、「ハラスメント」の定義を正しく理解し、「中庸」を心がけ、その言葉を用いていかなければ、社会全体が立ちいかなくなる恐れがあることを自覚して行かなければならない時期に来ているのかもしれません。
以 上
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