弁護士コラム
【弁護士コラム】退職代行から電話がかかってきたら、会社はどうすればいいか。
こんにちは。相模原の弁護士の多湖です。
最近、「退職代行」という言葉をニュースでよく見ます。
顧問業務等で、企業側の経営者から、「退職代行からの電話に対してどのように対応すればいいか相談される機会」も増えました。
今日はその退職代行について解説していきます。
退職代行サービスとは
退職代行サービスとは、「従業員本人に代わって退職の意思を勤務先に伝えるサービスのこと」をいいます。
退職代行の違法性
退職代行と聞くと、“弁護士しかできないのでは?”ということを思いついてしまいますが、退職代行は合法なのでしょうか。
退職代行が法令に抵触する可能性があるとすれば、弁護士法72条が挙げられます。
弁護士法72条は、
「弁護士または弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申し立て事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは若いその他の法律事務を取り扱い、またはこれらの周旋をすることを業とすることが出来ない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない。」
と定めています。
これは「非弁行為」と呼ばれています。
簡単にいうと、法令で定める特殊な例外(債権回収業者による債権回収などが典型例です。)を除き、弁護士以外が国民の法律行為に有償で携わる行為を禁じているわけです。
違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金と、それなりに重い刑罰が待っています。
これと似た規定が医師法17条で、これも医師以外が医業を行ってはならないとしており、医師法31条1号で三年以下の懲役または100万円以下の罰金が定められています。
弁護士法も医師法も、それぞれ「権利や財産」、「生命と健康」を守るためにこのような規定があります。
弁護士法の規制がない時代、困っている人からお金を巻き上げようとする人たちが、専門的な知識がないにも関わらず、法的な業務を行う代わりに法外なお金を要求したり、業務をしないでお金だけだまし取ったりしたことから、設けられている規制とされています。
そのため、法律行為をしない、すなわち事実行為(退職したいという伝言だけを会社に伝えたり、退職届だけ郵送したり、荷物を受け取ったりするだけ)のみであれば、弁護士法には違反しないと考えられています。
逆に、退職代行が、「退職をしないで欲しい、あるいは退職の時期をズラして欲しい」と求める会社と、そのまま交渉まで始めてしまえば、弁護士法違反となり、違法とされる可能性が高いです。
退職代行が非弁行為にあたるか否かの判断では、仮に退職代行業者に顧問弁護士がいても変わりはありません。
「顧問弁護士」という肩書があっても、あくまでその弁護士は全くの外部の弁護士で、代行業者とは別だからです。
仮に、社内に代表や社員として弁護士がいても、退職をしたい依頼者から受任して活動しないといけないのはその弁護士なので、弁護士が自ら、すべての依頼者と面談し、すべての事案の管理をしている場合でなければ、非弁行為の誹りは免れず、今度はその弁護士も「非弁提携」として懲戒されるリスクがあります(日弁連も債務整理の受任において、弁護士本人に依頼者との面談を義務付けています)。
退職代行との電話の中で、色々と話をする中で、自社に弁護士がいるので本人の代わりに行動が出来るかのように述べる退職代行があったら注意が必要です。
少なくとも現行法令化では、そのようなことは認められていません。
退職代行と関係なく、「その弁護士」が直接受任するより他はなく、「社員に弁護士がいるから。」ではなく、「弁護士が受任したから。」適法に行動できるのです。
退職代行業者から電話があったときにはどうすればいいか。
退職代行業者から電話があったときには、下記4つの観点で対応が必要です。
1. 退職代行を名乗る人物が本当に自社の従業員から依頼を受けているか、証明する書面を求める。
まず、弁護士を名乗る人物から連絡が来た場合もそうですが、その電話をしてきている人物が本当に退職代行業者の人物なのか、あるいはその退職代行業者が従業員から依頼を受けているのか証明させる必要があります。
そのため、弁護士は「受任通知」という書面を送ります。
自分の会社に所属しているかどうかも個人情報ですから、正体不明の人物とそれらの情報を与えるのは非常に法的リスクを伴います。
そのため、電話があった場合には、いきなり話し始めず、書面で証明をするように求めた方が無難です。
2. 本人に連絡をしてもいいのか
退職代行業者は弁護士のような「代理人」ではないため、あくまでやりとりの主体は「本人」です。
そのため、引き続き、本人とやり取りすることが可能です。
従業員側が法的根拠に基づいて直接のやり取りをやめたいなら、弁護士を入れる必要があります。
ただ、代行業者を入れるレベルには既に従業員との信頼関係が破壊されているわけですから、会社側が本人と連絡を取りたい理由によってはトラブルを助長する可能性があります。
特に伝えられている主張の内容に異議がないのであれば、退職代行業者とやり取りをした方が無難なことがあります。
3. 貸与品の返却
会社から従業員に貸与しているものは、あくまで貸与しているものですから、返却を求める権利があります。
退職代行業者もその辺はもちろんわかっていると思いますが、従業員が応じない場合、電子機器などであれば場合によっては損害賠償が認められる可能性があります。
後日、借りたこと自体を否定されるかもしれませんし、訴訟には細かい品目が必要なので、貸与品目が特定できるように、雇用契約を結ぶ際に、必ず、貸与品の詳細(品名、品番、色、形状等)と貸与時の状態を撮影した写真等を、添付した預かり証に従業員に署名押印してもらい、保管しておきましょう。
4. 従業員に業務の引継ぎを求めることが出来るか
多くの企業がお願いしているように、退職代行が間に入っていても、退職予定者に引継ぎを求めること自体はもちろん可能です。
退職日までは従業員だからです。
ただ、何をどのように引継ぎをすればいいのか、会社から具体的な内容をメールや書面等の証拠に残る方法で指示する必要があります。
過去に抽象的な指示しかされなかったため、具体的な指示がなく何を引継ぎをすればいいのかわからなかったと反論され会社側が敗れている裁判例があります。(東京地裁平成18年1月25日)
また、最後に有休消化を求められた場合、仮にやむを得ない事由があるとして時季変更権を使用したとしても、退職日を超えて就労を求めることは出来ません。
従業員が引継ぎを強く拒むのであれば、法的義務のあるなしにかかわらず、実際に引継ぎを受けることが難しくなります。引継ぎがないことを前提に代替策を取ることが出来るかを、速やかに検討した方がいいです。
なお、ウェブ上には、法令上、「労働者側に引継ぎ義務は認められていないから、会社に業務の引継ぎをする必要などないのだ」とする記事がありますが、これについては強い疑問が残ります。
法令は確かにそのような細かいところまで決めていませんが、「法的義務」かどうかというと、以下の裁判例で述べられているように、解釈上導き出される労働契約上の義務として、「法的義務」と考える方が自然です。
ただ、仮に引継ぎが不十分、あるいはなされなかったことで損害賠償が認められるにはハードルが非常に高く、一部の例外を除いては、ほとんどの場合、義務違反があっても損害賠償は認められなというのが実際の実務家の感覚だと思います。
その人物が引継ぎをしなかったから損害が発生したと立証することや、その他の方法でも損害が避けられなかったと証明することが難しいためです。
労働者の誠実義務からすれば,被控訴人が職を辞して労務の提供を停止するに当たっては,使用者である控訴人に対し,所定の予告期間を置いてその旨の申入れを行うとともに,自らが担当していた控訴人の業務の遂行に支障が生じることのないよう適切な引継ぎ(それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供など)を行うべき義務を負っていたものというべきである。
知財高裁平成29年9月13日判決
退職代行から連絡が来ても焦らない
退職代行から連絡が来ても、まずは落ち着く必要があります。
なかには自分で退職意思を伝えるべきところを業者に依頼されて、「裏切られた。」と思ってしまう経営者の方もいるかもしれませんが、我々弁護士から受任の連絡が来るケースを考えればまだよいかもしれません。
弁護士から連絡が来たということは、どうしても裁判等を控えていると考えてしまいますから。
弁護士ではなく、退職代行を依頼したということは、誰かの責任を問いたいわけではなく、単に会社を辞めたいだけということですから。
そのため、通常通りの退職者として対応していけば解決できることが大半です。
対応に困ることがあれば、こちらの対応は速やかに顧問弁護士に依頼をすることをお勧めします。
以 上
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