弁護士コラム
【弁護士コラム】企業法務・顧問:人手不足による新卒と中間層の従業員の逆待遇の問題

こんにちは。
相模原の弁護士の多湖です。
今日は、人手不足と売り手市場による、「新卒と中間層(入社後数年以上の経験がある従業員)の逆待遇問題」についてのコラムです。
少子化の流れと共に、人手不足が叫ばれて久しく、新卒入社の勤務条件は右肩上がりです。
多くの企業では、新卒の勤務条件を上げる際に、既に雇用している従業員の勤務条件のアップについても手当をしてこられたと思います。
しかしながら、中には「新卒の勤務条件だけを上げてしまい、4~5年以上のキャリアがあって労働能力に明確な差異があるにも関わらず、中間層の従業員の勤務条件が据え置きとなっている企業」も散見されます。
そこで、考えさせられるのが、「新卒の社員の教育やフォローを命じられて、通常業務に加算でただでさえ業務が増えるし、通常業務も新卒社員の三倍、四倍のペースでこなしているのに、何故私の方が給料が低いのだろう、これは許されるのか。」という疑問です。
例えば、最高裁令和5年7月20日判決は、旧労働契約法20条(現在は以下の短時間労働者の雇用管理の法律の8条)に基づき、正社員と嘱託社員の間の手当等の差異について、その待遇の性質、目的に照らして、支給、不支給が不合理な労働(待遇)条件の禁止にあたらないか(きちんとした説明がつくか。)を検討し、違法と判断しました。
いわゆる「同一労働、同一賃金の原則」と言われるものです。
正社員と嘱託職員の労働条件に関する規制について、労働契約法という法律の定めを解釈する形で違法性を認定したため、この判例は、今回の新卒の従業員と、中間層の従業員との逆転現象について当てはまるものではありません。
しかしながら、これらの判例や法律の根底においてあるのは、同じ労働(あるいはそれ以上の労働)をしているにも関わらず、不合理な労働条件の差異を設けるのは、労働者同士の平等な取り扱いの要請に反することが根底にあるわけです。
そうすると、実務能力、実務経験に明らかに差異があることが明白な新卒社員の労働条件が、中間層の従業員より遥かに高くなってしまっている場合、それが適法なのかと疑問を抱くのも当然です。
この問題について正面から判断している判例や法律の規制は、現在のところはありません。
そのため、本来は労働組合等を通じた労使交渉で解決すべき問題です。
しかしながら、何の措置も講じず、入社年度によって、あまりに不合理な差異が生じ、長年放置されてしまった場合には、法廷の場でも、今後争われていくかもしれません。
その時は、契約条件の均衡に関する一般法理や、他の条文の類推適用などが考えられます。
違法とならなくても、人材の離反を招くことは確実ですから、経営者側としても、資本の維持と業務の継続可能性を吟味しながら、その差異が明らかに不相当とならないように、例えば新卒条件の上昇率に応じて、中間層の一定の昇給を認める等の措置を講じて行く…などの必要性があるかもしれません。
<参照>
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076
以 上
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