誰も望んで借金はしません。
借金をするには必ず理由があります。
病気だったり,働いていた会社が倒産したり,家族を助けるためだったり,ギャンブルにハマって抜けられなくなってしまったり。
それらの理由がいつ消えるかも分からず,返せると思って借りたものが,金利もたまり,結局返せなくなってしまうということがあります。
借金を返せなくなってしまった場合,法律はいくつかの解決策を用意しています。
任意整理は,交渉と合意によって,お金を貸している債権者から,借金の減額や利息のカットを引き出す解決方法です。
大幅な元本の減額は難しいですが,利息のカットには応じる金融機関は多く,利息が新たに発生しない条件下で,3~7年(あるいは5年)程度で完済に至るように話し合いをすることが多いです。
そのため,現在実際に安定収入がある方で,現在残っている借金を3年(36カ月)や5年(60カ月)で割り,毎月の金額をしっかり返していける方が対象になります。
例えば,借金が300万円残っている方で,5年で完済するとすると毎月の金額は5万円となります。
任意整理の支払いを怠ると,残額を一括払いしなければならなくなりますので,この5万円という金額は,かなり余裕をもって支払える状態でなければなりません。
任意整理のメリットとしては,一部の債権者だけを対象にすることが出来たり,保証人に迷惑が掛からないこと,預金や保険などの資産の有無に影響されないため,自己破産や個人再生が難しいと考えている方でも試みることが出来ることにあります。
任意整理のデメリットとしては,返済総額が圧縮されることが少ないため,個人再生や自己破産に比べ,毎月の返済が大変になりやすいという点があります。
個人再生は簡単にいうと,返すべき借金を大幅に減らしてくれる手続です。
個人再生には①小規模個人再生と,②給与所得者再生があります。
自己破産との最大の違いは,住宅資金特別条項というものを付すると,
自宅を保有したまま,借金の減額が出来る点です。
どうしても自宅を残したい方は自己破産ではなく個人再生を選ぶ方が多いです。
小規模個人再生とは,
ア 借金の総額が5000万円以下(住宅ローンを除く。)の個人の方で,
イ 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり
ウ 原則3年で完済できる(特別な場合は5年)
場合に利用することが出来ます。
最低弁済額といって,弁済しなければいけない金額は法律で定められており,
以下の通りとなっています。
<借金の総額が3000万円以下>
ア 借金が100万円未満 →借金全額
イ 借金が100万円以上500万円未満→100万円
ウ 借金が500万円以上1500万円未満→5分の1の額
エ 借金が1500万円以上3000万円以下→300万円
オ 借金が3000万円超5000万円以下→10分の1の額
但し,不動産や預金,保険など,資産の額が上記の最低弁済額を上回っている場合には,資産の合計額までの借金については全額を弁済しなければなりません(清算価値保障原則)。
例えば,借金が1600万円である場合には通常は300万円に減縮されますが,
不動産を2000万円分持っている場合は,2000万円までの借金は返済しなければならないので,減縮は一切されず,1600万円満額を返済しなければなりません。
小規模個人再生に特徴的なのは,再生計画案(借金をどのように返していくかの計画案)について,債権者の法定多数(議決権者総数の半数以上または議決権総額の2分の1以上*債権者の半数以上,または,反対を唱えたものから借りている金額が借金総額の2分の1以上である場合,と言い換えるとイメージしやすいです。)が不同意の回答をすると,手続きが廃止になり,手続きが終わってしまうことです。
借入れをしてから1年以内などの日が浅い場合や,
一度に借りた金額,浪費の有無などで,債権者が反対をすることもままありますので,反対が予想される場合には,次の給与所得者再生を検討する必要があります。
※厳密には基準債権額や無意義債権という難しい概念が登場するのですが,ここは分かりやすく「借金」という言葉を用いています。
給与所得者再生は,小規模個人再生の要件の「将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり」が,「給与またはこれに類する定期的な収入であって,その額の変動が小さい」場合に利用することが出来ます。
会社員や公務員,売上の安定している自営業者の方が対象です。
債権者が反対していても利用できるのが特徴的です。
また,給与所得者等再生でも,借金の減額幅は,原則は小規模個人再生と同じなのですが,最低弁済額が,債務者の収入から,その債務者とその債務者によって扶養される者の生活費を控除した法定の可処分所得額以上の額である必要があるため(可処分所得要件),小規模個人再生に比べ,給与所得者等再生の方が返済額が大きくなることがあるため,一般的には小規模個人再生が選ばれることが多いです。
言葉として一番聞いたことであろう制度がこの「自己破産」です。
自己破産は借金をゼロにする制度です。
個人の自己破産は,破産者の財産を換価,処分していく「破産手続」と,
借金をゼロにするための「免責手続き」の二つがあり,
通常は,セットで申し立てを行います。
自己破産は,「支払い不能」,つまり「債務者が支払い能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することが出来ない状態」に陥っていれば,申立てをすることが出来ます。
つまり,どう頑張ってもお金を返していくことが長期的に出来ない状態,あるいは手元にもうお金がなくて返済が出来ない状態であれば,破産手続きの申立てをすることが出来ます。
財産については,自由財産と認められた資産については,
破産者がそのまま持っておくことが出来ます。
裁判所によって若干運用が異なりますが,
例えば神奈川県内の場合は,99万円以下の現金,購入から7年以上経過している国産車などは問題なく保有しておくことが出来ます。
各資産価値が20万円までの,預金や,保険(解約返戻金ベース)なども基本的にはそのまま持っておくことが出来ます(但し,資産全体の金額が99万円は超えられない)。
これを超える資産を持っておけるかどうかは破産管財人という裁判所が選任する弁護士の判断となります(なお,当事務所では所属弁護士全員が破産管財人を普段から務めています)。
自己破産で気を付けなければならないのは,免責不許可事由の存在です。
免責不許可事由に当てはまると,裁量免責に当てはまらない限り,免責にならないため(借金をゼロにすることが出来ない),注意が必要です。
免責不許可事由は,以下の通りです。
①財産隠匿等
債権者を害する目的で,破産財団に属し,または属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと(破産法252条1項1号)。
→つまり,資産を温存したまま破産をしようと財産隠しなどをしようとした場合です。
②債務負担等
破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,または信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと(破産法252条1項2号)。
→目先のお金を作ろうと,通常ではあり得ない不利益な条件で借金をしたり,クレジットカードなどで商品を買って転売した場合などです。
③担保提供・弁済等
特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で,担保の供与または,債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,またはその方法もしくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと(破産法252条1項3号)。
→例えば,破産間近で特定の親族や友人だけは助けようと,特定の人物にだけ土地などの担保を与えたり,支払期限までに繰り上げて弁済してしまったりする行為です。
④浪費等
浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,または過大な債務を負担したこと(破産法252条1項4号)。
⑤詐術による信用取引
破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続き開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
→借金が返せないと知りながら,債権者を騙してお金を借りた場合です。
⑥帳簿等の隠滅等
業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,または変造したこと(破産法252条1項6号)。
⑦虚偽の債権者名簿の提出
虚偽の債権者名簿を提出したこと(破産法252条1項7号)。
⑧説明拒否等
破産手続において,裁判所が行なう調査において,説明を拒み,または虚偽の説明をしたこと(破産法252条1項8号)。
⑨破産管財人等の職務妨害
不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理または保全管理人代理の職務を妨害したこと(破産法252条1項9号)
⑩期間制限
前回の免責許可決定等から7年を経ていないこと(破産法252条1項10号)。
などが,免責不許可事由に当たります。
免責不許可事由がある場合,裁量免責に当たるかどうかが検討されます。
免責不許可事由があるか,裁量免責にあたるかどうかは,破産管財人の経験を有する弁護士でないと判断が難しいところがあるため,まずは,それらの弁護士に相談することが肝心です。
法人破産の場合,以下のように手続きが進んでいきます。
①資金繰り等の相談
↓
② 破産手続きの選択
↓
③依頼及び申立準備
・債権者一覧表の作成,帳簿類の資料収集
・労働債権の整理
・財産の保全
・債権者対応
※事業用賃借物件の対応
↓
④破産手続きの申立て
↓
⑤破産管財人の選任
↓
⑥破産管財人への引継ぎ,管財人との協同作業
↓
⑦財産状況報告集会
↓
⑧破産手続きの終了,代表者個人の免責許可
法人破産は特に複雑で破産手続きに関する高度な専門性が求められ,
活動している会社においては事前に裁判所との協議等も必要なため,
弁護士を選任せずの申立ては難しいです。
経営者において,
法人が破産をする場合,特に気を付けなればならないのが,資金繰りの関係です。
法人は事業を行っているため,債権者や取引先が多く,大手金融機関からの借入れのみならず,中小企業の買掛先があるため,取り立てのために会社の事務所に押し寄せて来たり,納品した商品を無理やり持って行ってしまうことがあります。
また,代表者の住所も知っている場合には代表者の自宅に来てしまうこともあります。
そのため,法人破産を行うためには出来る限り,資金繰りをショートさせないように,あるいは資金繰りがショートする日をしっかりと調整したうえで破産の申し立てをしないと,かえって混乱が広がり,債権者の方にかえって迷惑をかけてしまうということがあります。
加えて,法人破産を行うには多額の費用がかかります。
大きな費用としては,
①予納金
②弁護士費用
③官報広告費用及び実費類(数万円)
です。
通常管財の予納金の目安としては,
負債額
5,000万円未満 70万円
5,000万円~1億円未満 100万円
1億円~5億円未満 200万円
5億円~10億円未満 300万円
10億円~50億円未満 400万円
と言われていますが,工場などの残置物の量などで金額が変わってくることも多いです。
また,既に活動していない会社など,特に破産管財人が活動する必要がない場合には,基本的に簡易管財(予納金が代表者と合わせて20万円)で処理されることが多いです。
弁護士費用も通常管財の場合は,予納金程度までの範囲で設定されることが多いと思います。
そうすると結局,通常管財の場合,破産手続きにかかる費用は,100万円程度から数百万円程度かかることもあり,それらの費用をどのように捻出するかという話になります。
売掛金を含め,手元資金が全くなくなってしまった場合,破産手続き自体出来なくなり,他に手立てがなくなります。
何年も取り立てや裁判を受けながら,どうすることも出来なくなり,放置をされている方もいます。
事業の経営をしていると,これまで守ってきた会社や,従業員を守るために破産を躊躇してしまいがちですが,手持ち資金がなくなってしまうと自己破産の申し立て自体出来なくなってしまいます。
例えば,税理士さんから破産の申し立てを勧められた場合や,手持ち資金が100~200万円を切りそうな場合には,必ず弁護士に相談するようにお願い致します。